忍者ブログ
ヤフー掲示板にて、時折出没しております、kuma8_takuan と申します。 今まで書きなぐってきた物などを多少なりとも整理できましたらと思い、 不慣れながらブログというものにTryしていきます。 
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

以下の文章は、ヤフー掲示板、北海道、道東、つないでDo-toトピックにて2004年2月~3月にかけて kuma8_takuan 名にて書き込んだものです。


そのとき幕外から「牛若~ 牛若はいるか」との声持った盃を置き幕外に出る義経、つづく弁慶。
見れば初老の山伏が一人。廻りを囲んだ手下の雑兵どもは、その気合に圧されてジリジリ退がる。錫杖を打ち鳴らしながら近づいてきた山伏は義経の姿を見つけると「わしじゃ、鬼一じゃ」と叫んだ。「おぉ!鞍馬のお師さま」思わず義経は叫ぶと雑兵どもを掻き分け、山伏の前に膝まづいた。
「鬼一方眼殿、鞍馬の天狗殿」後から続いた弁慶の声も涙声に変わっていた。思えば、金売り吉次に導かれて平泉へ旅立ってよりの師弟再会であった。
「まぁまぁ、ここでは、丁度しし鍋も煮えたところで」弁慶に促される ように三人は帷幕の内へ。
「何年ぶりになるかの~」と鬼一。
「かれこれ九年になります。」義経は師を招きいれながら応えた。
「よき武者ぶりとなったのぉ」と、その時、鬼一の足が止まった。
「その者は?」鬼一の目が光った。
「村の娘が酒を」と弁慶が言いかけたとき
「臨、兵、闘、者・・・・・」鬼一は、気合を込めて九字を切ると、娘 めがけて錫杖を突きたてた。娘は「チッ」というような声を発すると、 バクを切って帷幕を飛び越えた。あっけにとられた弁慶が追いかけようと するところを鬼一は「もう遅い、傀儡じゃ。」と引き止めた。
「あの娘が持ってきたものは?」と鬼一。
弁慶が徳利を差し出すと「犬にでも呉れてみぃ」と鬼一。
血の気が上がって、少々赤ら顔になった弁慶が徳利を鷲掴みに幕外に 出て行った。
鬼一は、義経に床几に坐るよう手招きすると言った。
「どうじぁ、六韜三略の道は?」


「ところで、お師さま」義経は迷いを振り切るように、鬼一に話しかけた。
「お師さまも承知と思われるが、我が本隊は一の谷の東に在り、平家軍と 睨み合いを続けておりまする。搦め手の我が隊は三草山に陣取る平資盛軍 に足止めを食い、兄範頼殿とこの義経で平家軍を挟み討ちにすると言う約 束が果たせずにいます。」義経は今までの胸のつかえを一気に吐き出すよ うに語りだした。兵法家としても名高い鬼一ならば、何か策があると思っ たのだ。
「凡そ戦いは、正を以って合し、奇を以って勝つ!」鬼一は、おもむろに 語り始めた。
「文韜、兵道篇に曰く。兵勝の術は、密かに敵人の機を察し て速やかにその利に乗じ、復た疾くその不意を撃つと。」
と、その時「方眼殿、方眼殿!」弁慶が足音を響かせてやってきた。
「案の定、犬になめさせてみたところ、いちころであった。」そう語る 弁慶の顔は、心なしか青ざめて見えた。
弁慶と眼があった義経は、決意を確認するように拳で膝を叩いた。
「いましがた失った命、何処に捨てても惜しくはない! いまこそ、父 兄の無念をはらす時ぞ! 弁慶、軍儀じゃ。皆を集めよ。」


風が巻いている。夜明け前にあがった火の手はやがて狼煙状の煙に変わり、 初春の空に舞った。三草山の麓に白旗が靡くのが鉢伏山からも遠眼に見えた。
「これで決まりかのう」先般来、山上から覗み見ていた僧形の男が呟いた。
男は懐紙を取り出すと何事か書き出した。梅の花が風に舞い、鶯が鳴きやんだ。
しのび寄った影に男は目を懐紙から離さずに呼びかけた。「まい鶴か?」
脇に膝まづいた女は、声にならぬ息を吐いた。「しくじったか、まぁそれも 栓なきこと。ところで資盛卿には伝えたのであろうな。」
「昨夜はとんだ邪魔者に遭いました。なんでも鬼一法眼とか。」
「む~、鞍馬の天狗か。坂東の猪武者どもにとんだ知恵袋がついたものよの。
難儀なことよ。して、資盛卿は如何に?」懐紙から外した眼は、問い詰める ように女を見た。
「昨夜のうちに。しくじれば必ず兵が動くとの意呂血様の言葉も伝えてござ います。また、資盛様は西へ向かわれたご様子。」
「して、この有様か。位人臣を極めるといえども所詮、戦となれば赤子同然。」
意呂血と呼ばれた男は、吐き捨てるように言った。
「儂も動かずばなるまい。三郎! 三郎は、おるか」


岩陰から動いた影が男の背後で止まった。「お呼びで」
三郎と呼ばれた男、年は二十四・五であろう。しかし、額に刻まれた深い皺が 年回り以上のものを感じさせた。
「時が動いておる」男は深く息をすると、続けて言った。
「忠度卿の元にあるお主の配下の者どもをまとめて、義経のもとへ走れ。」
一瞬、怪訝な顔をした三郎の肩に男は手を置くと「われ等は力ある者につく。
力を失った平氏とともに滅ぶ必要もあるまい。力と影は、一対のものよ。
力を握った者は、影を必要とするものじゃ。この戦、もう先が見えておる。
東西から挟み撃ちされた平氏が、海に追い落とされるのは時間の問題じゃ。」
男は立ち上がると、書き付けた懐紙をまるめ書状にし三郎に差し出した。
「これを持って山椒大夫のもとへ行け。あの者は義経のもとにいる筈じゃ。」
ひき蛙のような山椒大夫の姿が男の頭の中に一瞬よぎった。口元を僅かに 歪め、男は続けた「山城の竹山を大方買い占めたそうな。戦とは、人の命と 弓矢の消耗戦よ。あの者、源氏にも平氏にも矢玉を売りつけておる。武者供 が命のやりとりをすればするほど、あの者は太っていくという寸法よ。 平時には女子供を売り買いし、戦となれば武具の商いと、女と金につくづく 欲の深い御仁よのぉ。それゆえに、使い勝手もあるものじゃ。」と言うと男 は、若者に向かって微笑んだ。
得心したのか、三郎も口元を引き締めて笑み を返した。
「おおそうじゃ、土産よ土産じゃ、お主が忠度卿の元へつなぎをつけに通っ ておる道は、なんじゃったかのう?」思い出したかのように男は言った。
「鵯坂でございますか?」三郎が応えた。
「それよ、それじゃ。義経には、喉から手が出るような土産じゃろうて」
三郎はおもわず「あっ」と声をあげそうになった。


「一瞥いらい何年ぶりになるかのぅ。」先ほど内に声をかけた男が、大きな 目を探るように相手に注いだ。
声を掛けられた男は軽く両手を合わせると、 微笑み返した。
「よもや文覚殿からお呼びがかかるとは、思いもせなんだ。」
「まあまあ、ここで立ち話もなんじゃ。なかで一献さしあげよう。」と言う と、文覚と呼ばれた初老の男は店の中へはいっていった。
夕めしには幾分はやい店の中に客は無く、下働きの娘が運んできた膳を前に 文覚は男に酒を勧めた。
「今日お呼びしたのには訳がある。意呂血殿。」意呂血と呼ばれた男の三白 眼が一瞬光った。
「儂が今、鎌倉殿のもとで動いていることは承知であろう。」
意呂血と呼ばれた男は軽く頷くと「都の噂話では、義朝公のシャレ頭を持っ て頼朝公に挙兵を促したのは文覚和尚ということになっているぞ。」と言った。
「あっはっは!」文覚は、破顔一笑すると五分ほど伸びた白髪頭を掻いた。
真顔に戻った文覚は、顔を意呂血の方へ近づけると低い声で言った。
「実はお主に頼みがある。お主でなければ出来ぬことだ。」
文覚が、辞していった。伊呂波には、常連の顔が戻り始めていた。意呂血と 呼ばれた男は、瞼を閉じ腕組みをしたまま動かない。
先ほどの下働きの娘が 文覚の膳を下げにきたのか、男に近づいた。
男は気配を感じたのか眼を開き 言った。「まい鶴」 娘はチラッと男に視線を送ったが、そのまま膳を片付 け始めた。
「急ぎ、三郎に繋ぎを付けてくれ。」娘は軽く頷くと何事もなか ったかのように、膳を持って奥に消えて行った。
<今回の義経の検非違使の任官で鎌倉殿との兄弟の仲は決定的だな。義経も 所詮、捨て駒に過ぎぬのか? あの男、後白河院と鎌倉殿といい男二人に惚 れた女子のようじゃな。体は二つには裂けぬもの、難儀なことよのぉ。>
心の中でそうつぶやくと、意呂血と呼ばれた男は、伊呂波を後にした。
法住寺より七条大道りを西へ向かい鴨川を渡り、一つ目の四つ角を左、南へ 鴨川沿いに九条大道りに向かうと、九条大道り沿いに九条兼実の屋敷はあっ た。
文覚は屋敷の裏手に回ると内に向かって声をかけた。程なく中から閂を 外す音が聞こえ木戸が開いた。文覚は周囲をひとしきり確かめるように眼を やると、木戸をくぐった。


文覚が案内された部屋には、先客が待っていた。
「やぁやぁ、お待たせした。わざわざお呼びたてして、かたじけない。」
文覚が声をかけると、胡坐坐で坐っていた武者は、両手をつき冠を下げた。
文覚も胡坐に坐ると言った。「なにせ、しのびじゃからな。しのびじゃ。」
武者はゆっくりと冠を上げると、文覚に向かって微笑んだ。
「お久しぶりでございます。」年の頃は四十程であろうか、精悍な顔つきが 武者ぶりを感じさせた。
「今をときめく平氏追討軍の軍監殿をわざわざお呼びしたのは、頼朝公より 直々に伝えよとの仰せがあったからじゃ。のぉ、梶原殿」 と言うと、文覚は、大きな眼を梶原景時に注いだ。
「実は頼朝公のご心配いやご本音は、義経殿が後白河院に取り込まれては、 困るということよ。」と文覚は、身を乗り出すように言った。
「あの方は甚だお若い。一の谷の際にはそれが良いほうに出ましたが、今回 の検非違使の件ではそれが悪いほうに出たようです。頼朝公のご心配が現実 のものとなりました。近くに侍る者としてお恥ずかしいかぎりです。」景時 はそう言うと眼を伏せた。
「天下四分の計・・」文覚は唸るように言うと続けた「後白河院の御側には そんな事を言っておる輩も居ると聞く。西国の平氏、畿内の義経、関東の頼 朝公、そして奥州の藤原と、夫々を並び立たせ競わせて後白河院が支配する。 そのようなことは出来ようもない事じゃ。頼朝公も見抜いておいでじゃ。」
「義経殿は、断れないのです。木曾義仲のように兵で囲み幽閉されよと申し おるのではないのですが、院の前に出られると何も言えなくなってしまわれ る。まことに歯がゆい。」景時は自嘲気味に言った。
文覚は腕を組み、天井を見上げ、深く吸った息を静かに吐くと言った。
「頼朝公の言を伝える。義経に離反の動きあらば、鎌倉方の兵を一兵たりと も付けてはならぬ。今より関東の武者はお主が束ねよ、とな。」
景時は両の拳を床に付き、頭を垂れると「承知。」静かに言った。





PR
カレンダー
03 2024/04 05
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30
フリーエリア
最新コメント
最新トラックバック
プロフィール
HN:
沢庵 熊八
性別:
男性
職業:
自営業
趣味:
古代史・歴史小説・釣り
自己紹介:
父は会津、母は信濃出身で、どうみても縄文系の熊八です。北海道生まれで、関東育ち。現在は相模の国に住まいしております。
バーコード
ブログ内検索



HOMEへ戻る
忍者ブログ | [PR]
Copyright © 沢庵 熊八 All Rights Reserved.
shinobi.jp